Q. 量的緩和——日銀がお金を刷り続ければ、デフレは解決するのか?
A. 直接効果はほとんどなかった。お金をいくら刷っても、借り手がいなければ世の中には流れないからだ。デフレを直せなかった一方で、ゼロ金利政策とセットで続けたことで円安・格差拡大・財政規律の弱体化という副作用が積み重なった。
まず:量的緩和(QE)とは何か
日銀が市場で銀行から国債を買い取り、その代金を銀行の口座(日銀当座預金)に振り込む政策だ。財政出動(政府が借金して自分で使う)とは主体がちがう——お金を渡されるのは銀行で、その後どう使うかは銀行次第だ。
2013年〜 「異次元緩和」を始めた——でも効かなかった
アベノミクスの一環として、日銀は前例のない規模のQEを開始した。目論見はこうだった。
日銀の目論見:
結果、マネタリーベースはピーク時約760兆円(GDP比130%)まで膨らみ、日本国債の約50%を日銀が保有するに至った。他国と並べると規模の異常さがわかる。
それでも2013〜2021年のあいだデフレは続いた。なぜか。銀行は「貸せる相手がいなければ貸さない」からだ。手元資金が増えても、返せる見込みのある借り手が見つからなければ、日銀当座預金に積み上がるだけで世の中には流れない——つまり企業や個人が実際に使えるお金の総量(マネーサプライ)は増えない。
実際に起きたこと:
「貨幣乗数」が崩壊した
「日銀がベースを100増やすと、銀行の貸し出しで1000になる」——これが教科書の想定(貨幣乗数10倍)だ。現実はこうなった。
企業の借入抑制・人口減少で借り手そのものが消えていたからだ。
2022年〜 転換点——「2%インフレ」は達成されたが
ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、FRB(アメリカの中央銀行)が急利上げを始めたことで状況が一変した。
日銀はQEで国債を大量保有していたため、「利上げすると国債価格が下落して財務が悪化する」リスクを抱え、低金利に縛られていた。アメリカが利上げする中、日本だけが低金利のまま取り残され、日米金利差が4%超に拡大した。
ただしこれはQEの目論見通りの「消費・投資が増えて物価が上がる」ではなく、輸入コストの上昇が国民に転嫁されたコストプッシュ型のインフレだ。食料・エネルギーを買う家計には、恩恵より負担が大きかった。
今(2024年〜) 残った後遺症
後遺症① 円安・輸入物価の高止まり
日銀は2024年に利上げを始めたが、国債保有残高が膨大なため正常化のペースは緩やかだ。日米金利差は縮まりつつあるが、円安水準は続いており、エネルギー・食料の高コスト状態も続いている。
後遺症② 資産格差と年金の目減り
低金利で銀行から出たお金は株式・不動産に向かい、価格が上昇した。資産を持つ人は潤ったが、現金・預金だけの人には恩恵がなかった。インフレが進んでも年金給付はマクロ経済スライドで抑制されるため、年金頼みの高齢者は実質的に損をしている。
後遺症③ 出口戦略の困難——「やめたくてもやめられない」
「日銀が国債を買い続ける」という前提があると、政府は赤字国債を出しやすくなる。日銀が買取をやめれば国債価格が下落して金利が上昇し、国債費が膨らむ。10年以上かけて作り上げた構造から、簡単には抜け出せない。
まとめ
量的緩和は「デフレを直せなかった」上に、「後遺症だけが残った」。お金をいくら刷っても、借り手がいなければ世の中には流れない——それが2013〜2021年に起きたことだ。2022年以降の2%インフレはQEの成果ではなく外部要因によるコストプッシュ型だ。そして今、膨らんだバランスシートという「負の遺産」を抱えたまま、日銀は出口を模索している。
※ 日銀バランスシート・為替レートは2024年末時点の概算。